柳家喬太郎 田中泯
泯 自分が生きてるからやってること。偶然にも人間に生まれて生きてきている。
喬太郎 ぼくはあれかもしれない。柳家喬太郎じゃないときは、普通のおじさんになっていることが、たぶん、活力源。普段、ふっつーのおじさんだから、高座に上がったら柳家喬太郎でいられる。ぼくの場合は。パチンコ打ったり、いい年して『ウルトラマン』みたりしてることが、柳家喬太郎でいられる活力源かもしれない。ぼくの場合はですよ。強いて言えば。
――その時っていうのは、完全に落語モード、噺家モードはオフになってるんですか?
喬太郎 オフオフ。
――はー。じゃ、なんかこう、ネタいいのないかなぁとか思ってたりは全然しないってことですか? 探したりとか。
喬太郎 いや、普通に生きてて、面白いって思ったり、ネタになるかもとは思ったりはしますけど、こうやって(さがすような仕草)探したりはしない。
――探してるわけではなく、たまたまアンテナに引っかかれば?
喬太郎 そうそうそう。それはなんでアンテナに引っかかったかって言えば、ぼくもおもしろいと思ったからだって。おもしろいと思ったことはおもしろくしゃべれるはずなので。
――なるほど。
喬太郎 だから取材もしないし、探さないし。ネタも。
泯 ぼくはね、表現が言葉じゃない世界だから、むしろ百姓やってるときとか、そっちの方が自分らしいかな。あとは踊ってるときが一番楽しい。
喬太郎 はいはいはい。
泯 いっちばん楽しいのは踊ってるときです。それを田中泯と呼ぼうがどうでもいい。便宜上ね、言ってるだけだから。わたしのことでも何でもないかもしれないね。田中泯なんて。
喬太郎 わーーーー。
泯 ふはははは。
喬太郎 また、難しく考えちゃう。そんなこと言うと。
泯 今の若いダンサーたちは、「わたしのことを踊ってる」って言うじゃない? みんなね。わたしの大事な、わたしの、わたしの踊りって言うけど、おれそんなもんないもんね。おれにしかできないことなんて、何一つやってない。
――何が踊りになって行くんですか?
泯 踊りって、だから。言葉だと、どういう種類の言葉を使うかだとかいう話になるじゃない? 踊りなんか、それこそ動きなんて言葉が生まれるはるか昔から人間、動いてきたわけだから。そんな意味ではもう、誰彼特有のものなんて、ほとんどないんですよ。踊りっていうのは、けっきょく身体のことだから。どんな動きをやったところで、いわゆる芸人のように身体を使うっていうのはまた別の話で。ひょっとしたら、踊りっていうのとだんだん関係なくなっていくかもしれないしね。踊りっていうのが言葉と同じくらい大事だった時代があるわけですね。言葉がなかったから。
――踊りって、自分、回りに誰もいなくても踊りなんですか? 誰かが観て初めて踊りなんですか?
泯 人に観られるというか、伝えるとか感じられるとか、そういうところで初めて踊りなんでしょうね。だから「おどり」っていう音があったんでしょうね。「おどり」って呼んでた時代があったんです。それを「踊り」という文字を使って言語化していったわけです。だからかなり大事な人間の行為であったことは確かです。
――単純だからこそ、根本な感じがしてすごく難しいなぁって考えちゃいますね。
泯 そうですよね。だからどのくらい人間にその欲求があったか知らないけど。大事な表現だったはずです。
――なるほど。
泯 踊りなんかの場合はさ、いずれ落語もそうなると思うんだけどね、「おれが落語家だ」って言ってんだから落語家だよっていう時代がきっと来ると思うんだけどね。踊りなんて、もう、「ダンサーです」って言えばもうそれでおしまいだからね。「わたしダンサーです」。何の資格もいらないんだから。見る人が「ああ、ダンサーだ」って思えばもうそれで決着ついちゃう。誰も文句が言えない。珍しい商売ですよ。
喬太郎 えぇ、まぁ、そうですね。
泯 それで評価する基準がない。
喬太郎 基準はないかもしれないですね。
泯 だからもう、お客さん任せ。
【プロフィール】
田中泯(右)
たなかみん◯1945年東京生まれ。60年代クラシック・バレエ、アメリカンモダン・ダンスを学ぶ。74年独自の舞踊活動を開始。「ハイパーダンス」と称した新たなスタイルを発表。78年ルーブル美術館において海外デビュー。1985年から今日に至るまで、山村へ移り住み農業を礎とした日常生活をおくることでより深い身体性を追求している。映像界での仕事も国内外問わず多数行っている。11/18、12/23、原美術館にて踊りあり。
【田中泯公式サイト】
http://www.min-tanaka.com/
【田中泯公式サイト】
http://www.min-tanaka.com/
柳家喬太郎(左)
やなぎやきょうたろう◯1963年東京生まれ。落語家・柳家さん喬一門の真打。日本大学商学部卒業。平成10年NHK新人演芸大賞落語部門大賞、平成16~18年度国立演芸場花形演芸会大賞、平成17年度芸術選奨文部科学大臣新人賞など、受賞多数。古典落語・新作落語共に素晴らしい高座で大人気を博する。10/13〜22、浅草九劇にてペテカン公演『スプリング、ハズ、カム』に出演。
【『スプリング、ハズ、カム』公式サイト】
https://www.springhascome.net/【『スプリング、ハズ、カム』公式サイト】